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■炎天下のチャイ パキスタンやインドの蒸機を追う旅で、私にとって唯一楽しみは、いつでもどこでも飲めるチャイ(ミルクティー)である。私はコーヒー中毒と呼ばれるくらい、ブラックコーヒーを水がわりにに飲む。 1987年に初めてパキスタンを訪れて飲んだチャイの味は強烈だった。それはものすごいコクと甘さである。「こんなものを毎日飲んでいると糖尿病になっちまう」摂氏40度を超す暑い日中に熱いチャイを飲む人々が不思議でならなかった。 ある日私はミネラルウオーターを買うのを忘れてしまった。水は豊富にあるけれど飲む気にはならない。飲むやいなやさながら「急行列車」の水あたりで撮影どころではなくなるだろう。あまりの喉の乾きに仕方なく、チャイで喉を潤した。炎天下のもと熱いチャイだがグイグイと喉に入ってしまう。不思議と喉の乾きが鈍くなっているのに気づいた。水やコーラ、ビールだとすぐに汗をかき、つい浴びるほど飲んでしまう。私はすっかりチャイに魅せられてになってしまった。日に日に疲れも増し甘い物も欲しくなるころだ。
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パキスタン ミラクル カーンス駅構内 |
パキスタンやインドはどこでもお茶にありつけるのが有難い。駅やホームはもちろん街道沿いを歩くと石に当たるぼど茶店の数は多い。撮影中、暇な時間が出来ると飛び込みの店でチャイを注文、腰を下ろし涼む。1杯では足りず2杯注文することもある。あまりのうまさにその店の主人のチャイの作り方に興味を持ってしまった。ミルクは山羊の乳、紅茶の葉はアッサムやダージリンではなく、安く庶民的な葉だろうか。少量の香辛料を入れ隠し味を出す。店主は人数分の茶葉とミルクを混ぜ煮込む。小さなペコペコの鍋を高く上げテイーカップに熱いチャイを注ぐ。まるで曲芸をしているかのように得意げだ。店によって全然味が違う。口に合わない時は、隣の店で飲み直す。1杯あたり4ルピー(12円)はとにかく安い。 以前私と出かけた館野浩氏もチャイにはまったひとりだ。新婚間もない頃、奥さんへのお土産に紅茶の葉を買い込んだ。チャイの味を伝授したく、かの地の店主から作り方も教わった。帰国後「どうも、あの時の味にはほど遠く、コクも出ず失敗ばかり」とぼやいていた。やはり気候や風土に合うように量や煮込む時間を決めているので、同じチャイの味がでないのだろう。ビールも同じこと。地場産のビールを買い込んで日本で飲んでもちっとも旨くない。 私は新発売の缶入りミルクティーを見つけては試しに飲んでいる。名前の凝った製品は、チャイの味とはほど遠いものばかりだ。パキスタンやインド国鉄では無煙化の達成で私は今後訪れることもないだろうが、あのチャイの味だけは恋しい。 (RM・そして...アジアから 原風景の旅)より
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